クリスタルイヤホンの特性

クリスタルイヤホン
クリスタルイヤホンの様子。「CRYSTAL EARPHONE」「JAPAN」と表示されており、
振動板には小さな突起があります。(クリックすると大きくなります)

ロッシェル塩を発音体に用いたクリスタルイヤホンは、潮解(湿気で結晶構造が崩壊してしまう現象)が生じると使用不可能になる弱点があります。このため現在では生産が中止されており、現存するものは数少ないと噂されています。

実は、当サイトの公開準備をしていた2007年、OBの方からロッシェル塩のクリスタルイヤホンを譲り受ける幸運に恵まれました。早速、ゲルマラジオのイヤホンジャックに挿し込むと・・・これ、鳴ります!可動品です!セラミックイヤホンより音量は3〜5割ほど大きく、音質も異なります。どちらかというと、オーディオ用ヘッドホンに近い印象です。希少価値を重んじ、普段は使用せず厳重に保管することにしたのは、言うまでもありません。

今回は、クリスタルイヤホンの特性を測定するため、久しぶりに使用することにしました。


クリスタルイヤホンの周波数特性

クリスタルイヤホンの複素インピーダンスを測定しました。測定方法はセラミックイヤホンの特性と同じ要領で、自作のLC測定用ブリッジを使用します。この結果をグラフにします。

クリスタルイヤホンの周波数特性
クリスタルイヤホンの周波数特性。きちんと平衡を取ったハズでしたが、900、1000、4500Hzなどで誤差が
大きい様子です。ブリッジに微動操作用のVRを装備しないと難しいです。(クリックすると大きくなります)

直列容量ブリッジの状態で測定しており、グラフに表示した値は、直列の2素子に相当する値です。新品の状態から、どれほど性能劣化しているのか分かりませんが、セラミックイヤホンとかなり様子が異なります。以下、セラミックイヤホン(試料No.17)の値と比較します。


クリスタルイヤホンとセラミックイヤホンのキャパシタンス特性の比較
クリスタルイヤホンとセラミックイヤホンの容量特性(クリックすると大きくなります)

クリスタルイヤホンは容量が少ない、と言うより、セラミックイヤホンの容量が大き過ぎます。 極値を除いても、セラミックイヤホンはクリスタルイヤホンの約10倍あります。測定周波数の範囲内において、セラミックイヤホンでは誘導性になる箇所が一部に見られましたが、クリスタルイヤホンは全域で容量性です。


クリスタルイヤホンとセラミックイヤホンのレジスタンス特性の比較
クリスタルイヤホンとセラミックイヤホンの抵抗特性(クリックすると大きくなります)
対数グラフはこちら


抵抗については、クリスタルイヤホンはセラミックイヤホンより大きいことが判ります。 どうやら、オーディオ用ヘッドホンと同じように低音から高音まで一様に聞こえる感じや、音量も大きい理由は、主にこの特性が影響しているようです。 ゲルマラジオとの兼ね合い(インピーダンスマッチング)でも変化しますが、数値が全般的に大きいことが音量に寄与し、音質については極大値と平坦部の値における比率が小さいことが影響していると思われます。

クリスタルイヤホンのインピーダンス

以上の測定結果から、クリスタルイヤホンのインピーダンスを算出しました。同じく、セラミックイヤホンと比較してみます。

クリスタルイヤホンとセラミックイヤホンのインピーダンス特性(絶対値)の比較
クリスタルイヤホンとセラミックイヤホンのインピーダンス特性(絶対値)
(クリックすると大きくなります) 対数グラフはこちら

圧倒的にクリスタルイヤホンのインピーダンスが高いです。容量の少なさ、抵抗の大きさが影響した結果ですね。

グラフで特性を見ると、クリスタルイヤホンとセラミックイヤホンの違いがハッキリしました。 先輩方はこんなイヤホンで鉱石ラジオ、ゲルマラジオを楽しんでいたのかと思うと、ちょっとうらやましいです。 試聴した感じをスピーカーシステムで例えると、セラミックイヤホンは「高音と中音だけの2Wayスピーカー」、クリスタルイヤホンは「特性がほぼフラットなフルレンジスピーカー」と言った感じです。全体的にはクリスタルイヤホンのほうが音質は良いのですが、明瞭度から言えば、高音をハッキリと出すセラミックイヤホンが上だと感じました。 クリスタルイヤホンの新規生産がない現状、音質を重視するなら、トランス結合でオーディオ用ヘッドホンを使うと良いでしょう。


ご注意

本ページで扱っている「クリスタルイヤホン」は、圧電素子にロッシェル塩を利用した音響部品で、既に生産が中止されています。現在、一般に「クリスタルイヤホン」と呼ばれて流通している商品は圧電セラミックを利用しており、この性能については、セラミックイヤホンの特性をご覧下さい。