LC測定用ブリッジの自作

電子部品には周波数特性があり、受動部品(抵抗器、コイル、コンデンサーなど)も使用周波数によってはインピーダンス(レジスタンス、インダクタンス、キャパシタンス)が変動する場合もあります。これらの特性は、普通のテスターでは測定できません。プロ用途であれば、インピーダンスアナライザーなど高価な測定器もありますが、原理的にはブリッジ回路の平衡から計測する方法があります。つまり、ブリッジ4辺のうち、1辺に測定したい部品を接続し、ブリッジが平衡状態になるように調整した残り3辺の状況から、計算で測定値を求める方法です。

回路図平衡条件
ブリッジ一般Z1/Z2=Z3/Z4
Z1/Z3=Z2/Z4
Z1・Z4=Z2・Z3

測定値の計算手順ですが、まずはZ1〜Z4のそれぞれに、素子のインピーダンスを表す式を代入します。抵抗器はR、コイルはjωL、コンデンサーは1/(jωC)です(数学の虚数はiですが、電気工学ではjを使うのが通例。ωは角周波数で、周波数fとω=2πfの関係)。素子が複数で直列、並列であった場合は、その合成した式をZ1〜Z4のそれぞれに代入します。これが出来れば、後は数学的に実数と虚数(電気的にはレジスタンスとリアクタンス)に項を整理、方程式が成り立つ条件をチェックすればOKです。

ブリッジの種類

有名なブリッジ回路に「ホイートストンブリッジ」があります。これはブリッジの4辺がいずれも抵抗器で、主に直流電源を使います。電源に交流を使うブリッジは「交流ブリッジ」と呼ばれます。交流ブリッジの辺に既知のコイルやコンデンサーを使用することで、未知のコイルやコンデンサーの測定が可能となり、測定に適したブリッジ構成も幾つか知られています。色々な計測に対応できるよう、辺の構成を切り換えるブリッジは「万能ブリッジ」「インピーダンスブリッジ」と呼ばれています。

測定対象ブリッジ名称回路図平衡条件
(未知数計算)
抵抗ホイートストンブリッジホイートストンブリッジRx=R2・R3/R1
コイルマクスウェルブリッジマクスウェルブリッジLs=R2・R3・C1
Rs=R2・R3/R1
ヘイブリッジヘイブリッジLs=C1R2R3/(1+ω2C12R12
Rs=ω2C12R1R2R3/(1+ω2C12R12
コンデンサ直列抵抗ブリッジ直列抵抗ブリッジCs=(R2/R3)・C1
Rs=(R3/R2)・R1
並列抵抗ブリッジ並列抵抗ブリッジCp=(R2/R3)・C1
Rp=(R3/R2)・R1

(表中のsは直列(series)、pは並列(parallel)の意味合いです。)

上記以外にも、名前を持つブリッジが存在し、中には周波数の測定に適したものや、相互インダクタンスを求めるブリッジなども存在します。

LC測定用ブリッジの自作

ブリッジは各種ありますが、今回自作するLC測定用ブリッジは、インダクタンスの測定には「マクスウェルブリッジ」と「ヘイブリッジ」、容量の測定には「直列抵抗ブリッジ」と「並列抵抗ブリッジ」を利用できるようにしました。

ブリッジで使用する交流電源と平衡検出器は外付けです。交流は低周波信号(可聴周波数帯域、オーディオ帯域)を想定しており、別途準備します。平衡の検出は、測定周波数に対応したμVレンジを持つ電圧計が便利ですが、可聴周波数帯域であれば、セラミックイヤホン(クリスタルイヤホン)を利用し、音が鳴り止むことで平衡を知ることが出来ます。電圧計のメーターで読むほうが高級な感じもしますが、イヤホンによる検出方法は、測定器メーカーの万能ブリッジでも利用する方法であり、侮れません。

平衡点付近でのVR1、VR2は、繊細な操作が必要です。細かな操作が苦手な人は、微動操作用として1kΩ(B)の可変抵抗器をVR1、VR2に追加することで、操作が楽になります。

使用したブリッジのコンデンサー0.022μFは誤差5%のフィルムコンデンサーですが、ブリッジの使用直前に、その容量をデジタルマルチメーター(誤差 2%+3dgt)で確認することで確度を高めます。可聴周波数帯域におけるフィルムコンデンサーの周波数特性は、ほぼ一定だと期待されます。また、平衡時の抵抗値VR1、VR2も、その都度、デジタルマルチメーター(誤差 0.5%+1dgt)で測定します。回路図のSW1をOFF状態にすれば、ジョンソンターミナルから抵抗値が測定できます。

LC測定用ブリッジの回路図
LC測定用ブリッジの回路図(クリックすると大きくなります)

このブリッジでは、C1の値は1つで固定されていますが、こちらも大小の切り替えができると測定範囲が広がると期待できます。

ブリッジ回路を利用した測定は、理屈が簡単で精度も良いですが、本気で精密測定を考え始めると、やはり奥が深いです。結線に使う電線なども含め、ブリッジに使用する部品の検討は重要ですし、対地間や部品間の分布容量による誤差が無視できず、部品配置と静電遮へいが問題となります。ここまでキッチリとした製作が必要になると、メーカー品が高額なのも納得できる次第です。

とりあえず、趣味のアマチュア作品なので、安価な材料を利用しており、ブリッジの構成品は対称的かつ均等に距離を空けながら配置したつもりです。

参考:新版電気計測便覧(S.41.11.30発行)オーム社

LC測定用ブリッジの外観
LC測定用ブリッジの外観。ケースは100円均一ショップの品を利用。
側面のダイヤルはVR2-2(100kΩ)、ジャックは電源入力用です。
LC測定用ブリッジの外観
側面の青色スイッチはSW2、ジャックは測定資料接続用です。
ジョンソンターミナルの赤と緑でも、測定資料は接続できます。
LC測定用ブリッジの内部
ブリッジの構成品は、対称的に距離を離しながら配置したつもり。
配線は冗長性をなくすため、スズめっき線を利用しました。

ブリッジの使用感

実際にこのブリッジで、セラミックイヤホンの特性クリスタルイヤホンの特性を測定することができました。管理人は細かなダイヤル操作にチョットだけ自信を持っていたのですが、測定値をグラフ化すると満足できない箇所が発生しています。言い訳が許されるのなら、「ブリッジ測定で求められる精度に対にして、使用した可変抵抗器は完全に滑らかな値を取りつつ変化する素子ではない」と言ってみたいです。やはり微動調整用の可変抵抗器を追加する必要性を感じました。

ちなみに、測定に要した抵抗の最大値はVR1=5.16kΩ、VR2=101kΩ(セラミックイヤホンの容量極大値)でした。また、リアクタンスが0に向かうと、VR1、VR2が共に数オーム程度になってしまい、収拾がつきません。これはC1の値が大きいためであり、例えば100〜500pFを利用すると良かったのかもしれません。測定値が小さくなるほどブリッジの精密性も重要になると思われます。
(本章 2009/02/11追記)