Qメーター構成品の試作

ゲルマラジオの高性能化を検討すると、コイルのQは検討事項の一つになります。Qの専用測定器はQメーターと呼ばれており、おおまかな仕組みは、高周波信号を計測用の共振回路に加えて電圧測定を行っています(直列共振法)。自作したコイルを自作のQメーターで測定するのも、面白そうです。

今回の試作品は、Qメーターの構成に必要な高周波の信号源と計測用の共振回路を、1つのケースに収めたものです。製作のハードルを下げるため、電圧測定は外付けで、メーカー製の測定器に任せるほか、キットも活用したいと思います。

MAX038

高周波の信号源(発振回路)には(株)秋月電子通商の「MAX038使用広帯域精密波形オシレータキット」(通販コード K-00187)を利用します。MAX038は0.1Hz〜20MHzの出力が可能ですが、このキットではコンデンサC1を切り換えることで9レンジに分けて選択するように設計されています。また、出力波形の切換え(正弦波、方形波、三角波)、デューティサイクルの可変(15〜85%)も可能です。Q測定用の高周波オシレータとして利用するに当たり、キットに同梱されていたデータシートを参照し、おおよそ100kHz〜10MHzをレンジ切替なしで連続カバーできるように部品定数などを変更(C1、R2、R3、R12)、波形は正弦波、デューティサイクル50%固定に設定します。

Qメーター構成品の回路図
回路図(クリックすると大きくなります)。

キットは±5V各100mAの正負電源が必要なので、三端子レギュレーターで供給します。発振防止用の0.1μFは念のため、三端子レギュレーターと短く接続したいので、基板の裏側で結線しました。

計測用の共振回路にはエアバリコンを使い、バーニアダイヤルで調整しやすくします。エアバリコンの極板が錆びていたり、埃などで汚れていなければ、測定されるQはコイルのQと見なして良いだろうと期待されます。

Qメーター構成品の外観
Qメーター構成品の外観
Qメーター構成品の内部状況
Qメーター構成品の内部状況
Qメーター構成品の100Vライン
背面に電源スイッチ、ヒューズターミナルを配置。ACコードは抜け止めに結び、
被覆が傷まないよう、ゴムブッシュを利用します。
Qメーター構成品の電源基板
電源基板の様子。発振防止用の0.1μFは4個とも、基板裏で
三端子レギュレーターの足元に短く結線しています。
Qメーター構成品のAKI-038基板
AKI-038基板はキットの説明書に従い、PLL化しない場合の加工を施し、
必要な部品だけをはんだ付けしています。
Qメーター構成品の内部状況
AKI-038基板からジョンソンターミナルまでは、
同軸ケーブル(1.5D2V)を使っています。

動作を確認したところ、MAX038のIIN(周波数調整)によって180kHz〜7.5MHzまで可変しました。FADJ(周波数微調整)を併用すると、IINの下限で45kHz〜330kHz、IINの上限で3.2MHz〜11.9MHzまで可変します。都合、45kHz〜11.9MHzにおけるQ値の測定が出来そうです。

100kHz波形
<100kHz波形>
1MHz波形
<1MHz波形>
10MHz波形
<10MHz波形>

Qの算出方法

Qメーターであればメーターの指示値が即、Q値を表しますが、ここでは測定の原理に従って計算によって求めます。試作品の電圧測定と周波数の確認には、ユニバーサルカウンタやオシロスコープなどを利用します。以下の測定手順でQを算定します。
1 高周波オシレータの出力を測定したい周波数F(例えば1000kHz)にセットする。
2 バリコンを操作して周波数F に共振させる。つまり、バリコンの両端電圧(V2)が最大となるように調整する。
3 共振した状態のまま、高周波信号源の電圧(V1)を測定する。
4 抵抗器で分圧しているので、共振回路の両端電圧はV3=V1/50
5 以上の計測から、Q=V2/V3=(V2/V1)×50

フリーウェアソフトでQを算出

GRDS
直列共振法によるQの計算画面(GRDS Version1.4)

拙作のフリーウェアソフト「GRDS」では、Ver1.2以降で上記の計算に対応しています。説明やダウンロードについては、GRDSインフォメーション(外部サイト)をご覧下さい。

市販バーアンテナの測定例

構築したQ測定システムでバーアンテナのQを測定しました。製品に同梱されていた説明書のとおり、100以上のQを測定することができました。

測定中のコイルとそのリード線は、できるだけ周囲から離し、位置も変更しないようにします。

コイルのQ測定の様子
測定中のコイルは、周囲の影響を受けないように気をつけます。
プラスチックで机から少し持ち上げるだけでも効果があります。
市販バーアンテナのQ測定結果
市販バーアンテナのQ測定結果


回路定数の改訂

本試作品は、広い周波数範囲でQを測定できる点では良いのですが、ゲルマラジオと言えばやはり中波がメインであり、オーバースペックとも言えます。改めて中波専用のQメーターを検討していたところ、回路定数の配慮が不足していることに気付きました。被測定コイルとエアバリコンで構成した直列共振回路は、共振時の実効抵抗値がとても小さい値になります。200μHと360μHの実効抵抗値を計算してみました。(表内の単位はオーム)

200μH360μH
 500 kHz1000 kHz1500 kHz 500 kHz1000 kHz1500 kHz
1062.8125.7188.5113.1226.2339.3
5012.625.137.722.645.267.9
1006.312.618.811.322.633.9
2003.16.39.45.711.317.0
3002.14.26.33.87.511.3
4001.63.14.72.85.78.5
5001.32.53.82.34.56.8
6001.02.13.11.93.85.7
7000.91.82.71.63.24.8
8000.81.62.41.42.84.2
9000.71.42.11.32.53.8
 10000.61.31.91.12.33.4

Qが高いほど、インダクタンスが小さいほど、コイルの実効抵抗値は小さくなります。この実効抵抗値と1Ωの抵抗器を並列にするとどうでしょう? 合成抵抗値は1Ωから大きく変化することで、49Ωとの組合せで定義する分圧比に影響を与え、直列共振回路に印加される電圧が低下します。本来なら49:1で一定である分圧比の理論値に対し、どれだけの誤差が生じるか、Qが300の場合における計算結果をグラフ化しました。

理論分圧比に対する誤差を示したグラフ
200μH(0.05:50)と360μH(0.1:50)は、誤差がほぼ同じためグラフが重なっています。

分圧比の誤差はQ値の誤差になります。1Ωと49Ωで分圧してQが300の200μHを測定しようとした場合、700kHzで本来より約25%低下したQ値の計算結果を得てしまうことになります。ここで直列共振回路と並列にする抵抗値を0.05Ωまで小さくして、50Ωと組み合わせて分圧すると、誤差は3%以内に収まります。

本試作品で使用したキットの出力インピーダンスは50Ωであることから、分圧を行う抵抗器について、10Ω(1%)と39Ω(1%)の直列を100Ω(0.1%)2本の並列に変更し、1Ω(1%)を0.05Ω(1%、無誘導)に変更することにしました。

(2012/11/11 本章追記)

改訂前の分圧用抵抗
(改訂前)10Ωと39Ωの直列で49Ωを得て、1Ωと分圧している。
改訂後の分圧用抵抗
(改訂後)100Ω2本の並列で50Ωを得て、0.05Ωと分圧している。