デュアルAMゲルマラジオ

デュアルAMゲルマラジオの外観
デュアルAMゲルマラジオのケースは100均のペンケースです。
画面左側が系列1、右側が系列2の配置です。

ゲルマラジオをより大きな音で楽しむため、「ゲルマラジオを2台以上つなぎ合わせて出力を大きくしたい」という発想は、成功するのでしょうか? 確かに良いアイデアですが、1つのアンテナにゲルマラジオを何台つなげても、アンテナがキャッチしている電波のエネルギーは増加しませんから、音量は増えないでしょう。つまり、ゲルマラジオをつなぎ合わせるならば、ラジオと同じ数のアンテナが別々に必要だろうと考えられます。

今回はアンテナを2本使い、同じゲルマラジオを2台内蔵した「デュアルAMゲルマラジオ」を試作してみたいと思います。

独立した同じゲルマラジオ2台を組み合わせ

デュアルAMゲルマラジオの回路図
デュアルAMゲルマラジオの回路図

デュアルAMゲルマラジオは、独立した2台のゲルマラジオを組み合わせたものであり、同じバリコン、同じバーアンテナ、同じダイオードを利用しています。せっかくなので、組み合わせ方法を若干変更することによって、4つの受信モードを搭載することにしました。

受信モードアンテナの接続SW1SW2SW3イヤホンジャック
系列1系列2通常補助
シングル××××
×××いずれか1つ
立体放送×同時利用
倍電流××
複同調××いずれか1つ
×××

( ○:使用、ON  ×:未使用、OFF )

● シングルモード
一方を動作、他方を休止した状態です。1台のゲルマラジオとして動作するモードです。
● 立体放送モード
立体放送とはステレオ放送の一種で、左右の音声をモノラル放送の2局がそれぞれ別の周波数で放送し、受信者は2台のラジオで受信することで、ステレオ音響を聴くことが出来ます。日本国内での立体放送は、中波放送で1952〜1962年(昭和27〜37年)に実施されていました。 今後、AMラジオの立体放送が再開されることは到底有り得ませんので・・・つまり、二人が別々の放送を聞く受信モードです・・・。
● 倍電流モード
2つのアンテナを利用して1つの放送を受信し、音声電流を足し合わせて音量を大きくする受信モードです。
● 複同調モード
1つの放送を2回同調することで、分離を良くする受信モードです。
バーアンテナの固定
バーアンテナの固定には、竹串をコアの台座として利用。
接着後、はみ出した竹串を切り落として完成。
ボンドGPクリヤー
ポリプロピン(PP)を接着できる製品は
少ないので注意が必要です。
デュアルAMゲルマラジオの内部
デュアルAMゲルマラジオの内部。バーアンテナは結合しないよう、
距離を置いて直角に配置してみました。
バーアンテナの固定状況
バーアンテナの固定に、竹串を台座として利用してみました。

使用したバーアンテナ(SL-50GT)のフェライトコアは、断面が円形のため転がりやすくて固定に困ります。本来ならば、専用の部品(プラスチック製の保持具)で固定したいのですが入手できませんでした。この代替品として、2本並べた竹串を接着剤でコアに固定し、この竹串を接着剤でケースに固定することにしました。コアと竹串の接着には2液式のエポキシ接着剤(100円ショップで購入)を、竹串とケースの接着には「ボンドGPクリヤー」(コニシ製、DIY店で20ml品を210円で購入)を利用しました。今回準備したケースは、材質がPP(ポリプロピレン)であるため、市販されている大多数の接着剤では接着できません。身の回りのプラスチック製品にはPPが多数ありますが、PPを接着できる接着剤は少ないのが現状です。

2つのバーアンテナですが、電磁誘導しないように距離をあけて直角に配置しています。もし電磁誘導が生じると、不用意にウェーブトラップが作用しかねません。

結合特性の調整として使用した150pFのバリコンは、AMスーパー用の2連ポリバリコンを利用しています。このバリコンは同調側が150pF、局発側が70pFと容量が異なる2連バリコン(親子バリコン)で、今回は同調側だけ利用してみます。

複数の受信モードを楽しむ

使用する2本のアンテナも、できれば似た特性のものが好ましいところです。管理人の場合、系統1には水平長16.6メートルのロングワイヤーアンテナ(当サイトの第1アンテナ)、系統2には2.5×3.5メートルのループアンテナ(非同調、当サイトの第2アンテナ)と、異なるアンテナで試聴することにします。アースは水道管アースを利用します。

シングル、立体放送モードの受信結果

2台のゲルマラジオ
デュアルAMゲルマラジオと小型バーアンテナを使用したゲルマラジオ

シングルモードは、地元3局が受信できます。普通のゲルマラジオと全く同じです。静かに聴く分には問題ない音量ですが、比較すれば小型バーアンテナを使用したゲルマラジオの方が大きく鳴ります。アンテナとの相性もありますが、バーアンテナの違いが、音量に現れたと考えられます。

立体放送モードですが、奇妙です(笑)。1つのイヤホンで混信した2局を同時に聞くのと異なり、左右別々に分離された2局を聞くのは、やはり別感覚です。このモードは、デュアルAMゲルマラジオの企画として、作れるから作った!という代物ですが、立体放送が行なわれた当時には、立体放送を受信するゲルマラジオの製作記事が存在します。

複同調モードの受信結果

幸か不幸か、地方で放送塔から少し離れた場所に住んでいると、混信はさほど問題ではありません。複同調の必要性は、無視できる程度のものです。擬似的な実験として、シングルモードで丁度2局が混信しあうように同調した状態から複同調モードに切り替えたところ、混信が解消されて、2局のいずれかを受信することを確認しました。また、VC3を調整するとVC1、2の調整で強く受信できる局が変化することから、単峰特性から双峰特性まで変化しているだろうと推定されます。

倍電流モードの受信結果

さて、デュアルAMゲルマラジオの真打ち、倍電流モードです。シングルモードで系統1,2を同一局に同調を取ります。その後、SW1とSW2をそれぞれON、OFFを試すと・・・僅かですが倍電流モードで音量が大きくなることが確認できました。イヤホンジャックに100μAの電流計を接続したところ、系統1で1μA、系統2で1μA、倍電流モードで2μAを測定しました。


この受信結果ですが、正直、思っていたほどの音量増加ではありません。色々と試したところ、どうやら外部アンテナと使用したバーアンテナ(SL-50GT、公称Q100以上)の相性が悪いのでは?という仮説にたどり着きました。例えば、小型バーアンテナを使用したゲルマラジオ(バーアンテナはPA-63R、公称Q150以上)に第1アンテナを使用すると約10μAを出力しますが、第1アンテナと第2アンテナを直列に接続しても、出力電流は同じく約10μAのままです。しかし、シングルモードのデュアルAMゲルマラジオに第1アンテナと第2アンテナを直列に接続すると、1μAであった出力が10μAまで増加します。

管理人の環境下では、アンテナの接続方法を変えることで、倍電流モードよりシングルモードの方が出力電流が多くなるという、思わぬ結果にたどり着きました。倍電流モードで出力電流の増加を確認できたのは成果ですが、その前にシングルモードでのパフォーマンスを十分に検討しておくことで、より良い結果が得られると思います。倍電流モードについては、改めて実験したいと思います。

参考資料

鈴木 昇,「音を大きくするために倍電流回路のゲルマ・ラジオ」「立体放送の聞けるゲルマ・ラジオ」,たのしいゲルマ・ラジオの製作,電波新聞社,1958年発行